ショーンガウア《聖セバスティアヌスの殉教》

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    JUGEMテーマ:美術鑑賞

    好きな絵についての個人的鑑賞考察。

    ショーンガウア《聖セバスティアヌス》

    ショーンガウア《聖セバスティアヌス》

    年初にショーンガウアの展覧会の図録を神保町の古本屋で偶然手にした。

    ショーンガウアの展覧会があったとは知らなかった事、タイトルにケルトフォントを使用し、中世写本を意識させる凝った装丁も購入動機には充分だった。

    銅板画特有の繊細さと美しさ、しかし主題にも関わらずグロテスクで何処か闇の雰囲気を漂わせている。

    ショーンガウア、後期ゴシック期に写本挿絵画家として活躍。
    ルネサンス期の人文主義を啓蒙するもので無く、かといって宗教讃歌でも無い。
    時期もあってか、ルネサンスに繋がる写実的な表現を取り入れている。

    図録ではゴシック期の版画とショーンガウアのものとの比較検討がされていた。
    銅板画特有の繊細な線での写本装飾は、独特だ。
    キリスト、聖母、聖人像。モノクロであるがそれを彩る怪獣の姿。

    その中に《聖セバスティアヌスの殉教》もあった。
    ギュスターヴ・モローの聖性溢れるものとも、グイド・レーニの官能的なものとも違う。
    グイド・レーニの《聖セバスティアヌスの殉教》は三島由紀夫の『仮面の告白』でご存知の方も多いはず。
    Saint Sebastian vol.6

    これらとは全く異なる、グロテスク表現の《聖セバスティアヌスの殉教》
    有機的な不気味さだ。
    木に縛りつけられたセバスティアヌスは木に沿うように身体を捻り、刺さっている矢は枝のようで、まるで木と一体化しているよう。

    「怪異な、奇妙な、突飛な、滑稽な」という意味をもつグロテスクも、シュレーバーの<基本語>のように、恐ろしさとおかしさという相反する二つの要素から成立する。グロテスクとは本来は古代の装飾文様の一種で、唐草文様のなかに人間や動植物、さらには空想上の生物を誇張・歪曲した形に描いたものをさすが、これが十五世紀末にローマで発掘された地下遺跡(グロッタ)で見つかったところから“グロテスキ”とイタリア語で命名され、のちには装飾術や造形芸術のみならず文学や思想の領域でも用いられるようになった。

    丸山圭三郎『言葉・狂気・エロス』より引用


    元々ショーンガウアは金細工師の家系だったようで、これら銅板画も彫金の下絵だったらしい。
    腰巻き(褌と言うべき?)の緻密な皺の描写は彼の試み、

    苦痛に身を捩り、何本も矢を生やし歪む身体。
    死に瀕したその表情は力無く俯いている。
    聖セバスティアヌスは矢で射られてもその時は絶命しなかったらしいが、この版画にあるものは死相そのものではあるまいか。
    しかし、その表情が瞑想しているようにも見える。

    木と一体化していると前述したが、あながち間違っていないと思う。
    ゴシック美術にキリスト教文化に淘汰されつつある民間信仰、自然崇拝への情景があるという指摘もある。
    その観点から見るとこれはグリーンマンの系譜に成るだろう。
    何より『花―死―人』の系譜に思えて惹かれる。

    木に成る人――
    ギリシア神話のダフネの月桂樹への変身譚。
    ベルニーニの美しい彫刻の主題を思い出す。あの画期的な変身の表現がされた彫刻は、一度見たら忘れられない。ショーンガウアの《聖セバスティアヌスの殉教》はそれに通ずるものがあるように思える。

    聖セバスティアヌスを象徴する樹の話は聞かないが、彼は十字軍の守護聖人や中世に猛威を振るったペストから人々を守る守護聖人とされ、15世紀には射手兄弟団の守護聖人となった。

    変身、自然との一体化――
    それらが私にとって魅力的な主題なのだ。
    新しい可能性と、回帰の暗示のように思えるのだ。


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      • 2020.07.11 Saturday
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      • 22:38
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