ラファエル前派の軌跡展

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    JUGEMテーマ:展覧会

    ラファエル前派の軌跡展

    終わってしまった展覧会。

    公式サイト:
    https://mimt.jp/ppr

    丸の内・三菱一号館美術館( https://mimt.jp/ )にて。

    ラファエル前派の展覧会は、私が直近で見たものは2016年の英国の夢 ラファエル前派展( 渋谷・Bunkamuraザ・ミュージアム )以来、3年ぶりになる。

    2014年には六本木・森アーツセンターギャラリーで大規模なラファエル前派展があり、ここ三菱一号館美術館でもザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860-1900(以下、『ザ・ビューティフル』)が行われた。その感動を再び味わう。
    その時拝見したフレデリック・レイトン《母と子(さくらんぼ)》やモリス商会のミノタウロスのタイルデザインが再び来日していた。

    今回の『ラファエル前派の軌跡』のキャッチフレーズが「美しい、だけじゃない。」に様々な思いを読み取る。2014年の『ザ・ビューティフル』のキャッチコピーが「唯、美しく。」であったことを考え合わせると。
    『ザ・ビューティフル』の唯美主義の前進に、ラファエル前派の理念があった。その軌跡を補完する展覧会だった。


    今回の展覧会は、ラファエル前派を評価し支援していたジョン・ラスキン生誕100周年に合わせた企画展。

    第一章は、ラファエル前派を擁護したラスキンと、彼が擁護したターナーの作品が展示。
    一見すると、華やかなイメージのあるラファエル前派の作品と、ターナーの絵に関連性を見いだせない……ラスキンの絵にも……
    私は2013年に行われたターナー展を観に行った。そこで拝見したターナーが後の印象派に影響を与えたことは想像に難くない。

    ほぼ同時代ではあるが、一見、表現方法が異なる派閥の絵画。しかしその根底には“自然に忠実”というラスキンの美学を共有していた。
    だだ「ラファエロ(ラファエル)を規範として形骸化していた当時のアカデミズムに反発する」という点で、ラスキンとラファエル前派(兄弟団)は意見が一致していただけのようなので、“自然に忠実”であることについて一つの表現方法に縛られず、各々多様な解釈、表現を用いたようだった。

    第二章からラファエル前派の画家たち、後半はラファエル前派周縁の画家たちに、影響を与えたアーツ・アンド・クラフツ運動のウィリアム・モリス(モリス商会)の仕事を紹介。


    ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウエルティコルディア(魔性のヴィーナス)

    ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《ウェヌス・ウエルティコルディア(魔性のヴィーナス)》

    波打つ豊かな赤い髪。それに呼応するような厚みのある赤い唇。
    さらにそれが拡張されるように、背景の薔薇(性愛の象徴であり、ヴィーナスのアトリビュート)や手のリンゴ、手前のスイカズラ(詩などで男女の愛を表す)が取り囲む。それらの赤い色の多様さも興味深い。
    愛神エロス(クピド)の黄金の矢(男を心変わりさせる)を手にし、魂の象徴である蝶(プシュケー、ここではヴィーナスの虜になった男たちの魂)が舞っている。
    それら黄金と黄色の色味が輝くような鮮やかさで、絵画を鑑賞する人を誘う。
    エロティックな片方の乳房も目を惹く。

    ヴィーナスに扮したジェイン・モリス(バーデン)。
    アーツ・アンド・クラフツ運動を掲げたモリスの妻だが、ロセッティのミューズであった女性。
    “魔性”と枕詞がついているこの絵に、エロスとプシュケーの物語でプシュケーにつらく当たるヴィーナスや、トロイア戦争の引き金となるパリスの審判のイメージもさることながら、不倫のイメージを想起されてしまう。
    その蠱惑的な姿に鑑賞者もその魔性に魅せられてしまう……

    ロセッティは‘色彩豊かなヴェネツィア派の影響を受けた女性の半身像を描くようになり、それを批判したラスキンと不仲になった(※1)’らしい。過剰に散りばめられた意匠による官能表現に対し、「花が下品だ」と酷評されて……

    ウィリアム・ヘンリー・ハント《ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣

    ウィリアム・ヘンリー・ハント《ヨーロッパカヤクグリ(イワヒバリ属)の巣》

    “自然に忠実”を体現した作品として出展されていた。
    小さな作品だが目を惹く作品だった。
    土の色と青い卵の美しさにも惹かれるが、その細密描写に息をのむ……写真かと見紛うてしまいそうだった。

    19世紀の写真はモノトーンだし画素数も荒いので、当時の写真では表現しえないリアリティだろうから、写真と比較するのはおこがましいかも知れない。

    家に帰って調べていたら、英国の夢 ラファエル前派展でもこの作品は出展されていた……意外と忘れている自分にがっかりorz。それともあの頃より少しは審美眼が養われたためだろうか……

    エドワード・バーン=ジョーンズ《赦しの樹

    エドワード・バーン=ジョーンズ《赦しの樹》

    ミケランジェロを彷彿させる男性像(※2)の逞しさと、彼を捉えるようにその身体に腕をまわし抱き着く女性像が艶っぽい。

    同じ構図、背景違いの作品《ピュリスとデーモポーン》が存在する。男性の股間が露わのままである描写が当時、物議を醸したため新たに描き直した。
    2003年のヴィクトリアン・ヌード展で、イギリスのヴィクトリア朝で当時の道徳規範とヌード表現に対する葛藤、論争が起こっていた(※3)こと知るが、この絵も例外ではなかったのだろう。

    この絵の女性の顔は、自分との不倫関係から自殺未遂事件を起こした、マリア・サンバコをモデルにしている。自身の恋愛体験を描いたことも賛否を巻き起こした。(※4)

    エドワード・バーン=ジョーンズ《 ピュラモスとティスベー

    エドワード・バーン=ジョーンズ《 ピュラモスとティスベー 》

    壁を挟んでシンメトリックな構造で描かれた男女。
    壁のわずかな隙間から文を交わしているようであったり、相手の姿を見ようとしている。
    中央には弓を携えた青年男子の姿。おそらくクピド(アモル)であろう事から、恋人たちであると想像がつく。

    その構図から、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』のモデルになった話であろうことは想像に難くない。(※5)

    中世写本の挿絵のようにも見える構図が、より物語性を強調する。


    ラファエル前派は斜陽と向かう。
    作風、考え方の不一致だけではない。その原因と言われているのが、人間関係のもつれ……‘皮肉なことに、ラスキンの助け舟に始まる人間関係と高まるミレイへの評価だった’(※6)という。ラファエル前派を擁護したラスキンが交流を深め、ラスキン夫婦とミレイは共に旅行をする。そこでラスキンの妻・エフィーとミレイは恋に落ちてしまう……

    会場にはその旅行でミレイが鉛筆と水彩で描いたラスキンの肖像が展示されていた。

    元々、反アカデミズムで集った人々は必ずしも一枚岩ではなかった。ラスキンは「自然に忠実に」――現実主義(リアリズム)――あることを良しとしていたが、ラファエル以前の芸術への愛好、中世趣味というわけではなさそうだし…集った画家たちも、時代の空気や様々な影響を受けて己の表現を模索しているうちに、独自の路線を見出していった。
    何より男性たちの女性問題による感情のもつれ(男性の所有欲と芸術における自己顕示欲でもあっただろうか?)は、ラファエル前派の終焉を早めた。

    ラファエル前派の人間関係は複雑だ(※7)。モデルの女性たちは描かれた主題と同様に……むしろ何故か彼女たち自身をも破滅に導く、 宿命の女 ファム・ファタール になっている。

    最近ではそれを基にしたTVドラマもあったし……(※8)

    よく考えるとスキャンダルが起こること自体、不思議ではないだろうか。そもそも、ラファエル前派の理念の中には、中世キリスト教を理想とする宗教性があったはずである。
     その彼らが、略奪婚(ミレイ)を行い、不倫(ロセッティ、バーン=ジョーンズ)に走り、近親婚(ハント)の罪まで犯したのだ。
    あまりに人間的と言えば人間的だが、なぜ彼らは自らの堕落を招く危険極まりない「絶世の美女」を探し求め傍らに置いたのだろう。
     古来より物語画に描かれてきた美女は、理想型であり、架空の存在である。この架空の存在を描くために、古代ギリシャのゼウクシスは、5人の美女の美しい部分を集めて描いたという。初期ルネサンスの万能人アルベルティもその著書『絵画論』で紹介したこの方法を、ラファエル前派は採用することができなかったのだ。何も拒まず、何も選ばず、何も軽んぜず「自然に忠実に」神の御業を描こうとした彼らは、その美女たちが、危険な「 宿命の女 ファム・ファタール 」だとしても、完全体としての「スタナーズ(Stunners:絶世の美女たち)」を求めたのである。

    ラファエル前派の危険なミューズたち
    平松洋『ラファエル前派の世界』 2013 p.137

    ラファエル前派は解散する。しかしその理念は多様な分野、芸術様式に受け継がれてゆく。

    後の唯美主義だけでなく、国を超えて、モローやクリムトなど象徴主義、アーツ・アンド・クラフツ運動はミュシャに代表されるアール・ヌーヴォーに影響を与えた。

    思えば、先日のギュスターヴ・モロー展にあった《出現》に代表されるサロメや他の 宿命の女 ファム・ファタール たちは、決してモローの身近な女性たち――母親やアレクサンドリーヌ・デュルー――をそのまま写したものではなかった。
    モローは現実ではプラトニックな愛を貫いていたし……ラファエル前派の影響を受けた彼がその同じ道を辿らなかったのは、当時の独身主義があったのかも知れないが……今の私はわからない。


    結局、ラファエル前派とは何だったのか?
    確かに「美しい、だけじゃない。」
    反アカデミズムからの中世趣味。中世の素朴な描き方そのままではなく「自然に忠実に」 現実的 リアリティー ある描写を追求する。しかし主題は古典絵画の主題―― 聖書や神話伝説 ファンタジー ――である。 さらに美術史を紐解けば女性問題が付随してきて……それはあまりにゴシップでドロドロしている……
    多様過ぎて、一言では語れないものだった。
    それ故に多様な感動があり、発見があり、見る人を惹きつける。

    1. 19世紀ビクトリア朝英国で花開いた世紀末美術の先駆け ラファエル前派」『一個人2019年6月号 【特集】世紀末美術入門 19世紀末に華ひらいた退廃とエロスの美』 ベストセラーズ p.33
    2. バーン=ジョーンズの方は、71年のイタリア旅行でミケランジェロに心酔するが、これにはラスキンと意見が合わなかったようだ。こうして彼は、初期の暗い中世趣味から、ボッティチェリの優美と、肉体派のミケランジェロに影響を受けた作品を展開してゆく。

      後期ラファエル前派の特徴、あるいは、偏愛」平松洋『ラファエル前派の世界』 2013 p.132

    3. 展覧会ニュース 2003.2.15 ヴィクトリアン・ヌード
      http://www.dnp.co.jp/artscape/news/0302/mainichi030215.html (2019/9/8 確認)
    4. 同上「19世紀ビクトリア朝英国で花開いた世紀末美術の先駆け ラファエル前派」『一個人2019年6月号 【特集】世紀末美術入門 19世紀末に華ひらいた退廃とエロスの美』 ベストセラーズ p.33
    5. 「ピュラモスとティスベ」:オウィディウス
      https://www.kitashirakawa.jp/taro/?p=5936 (2019/9/8 確認)
    6. ラファエル前派兄妹団の早すぎた終焉」平松洋『ラファエル前派の世界』 2013 p.63
    7. 同上「ラファエル前派恋愛相関図」『ラファエル前派の世界』 2013 p.138〜p.139
    8. ラファエル前派のドラマ「SEXとアートと美しき男たち」 | 青い日記帳
      http://bluediary2.jugem.jp/?eid=2568 (2019/9/8 確認)
    参考文献
    3分でわかるラファエル前派(1) 近代芸術に大きな影響を与えた19世紀イギリスの反アカデミズム集団「ラファエル前派」とは
    http://blog.livedoor.jp/kokinora/archives/1036597243.html (2019/9/8 確認)
    長井和博 「特集 ヴィクトリア朝の闘うヌード」『芸術新潮』 2003年6月号
    芸術新潮 2003年6月号
    平松洋『ラファエル前派の世界』 KADOKAWA 2013
    ラファエル前派の世界
    荒川裕子『もっと知りたいラファエル前派』東京美術 2019
    もっと知りたいラファエル前派 (アート・ビギナーズ・コレクション)
    一個人 2019年6月号 【特集】世紀末美術入門 19世紀末に華ひらいた退廃とエロスの美』 ベストセラーズ
    一個人(いっこじん) 2019年 06 月号
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      • 2019.09.17 Tuesday
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