英国の夢 ラファエル前派展

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    JUGEMテーマ:展覧会
    英国の夢 ラファエル前派展

    公式サイト:
    http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/15_raffaello/index.html
    (2016/2/25確認)
    渋谷・Bunkamuraザ・ミュージアムにて。
    〜2016/3/6まで。

    今、再びのラファエル前派展。
    一昨年開催されたラファエル前派展と比べて、私的空間の様相が強い作品が多い気がする……

    それは作品を所蔵している美術館の傾向、元は個人(企業家)のコレクションであるためだろう。

    文学作品にインスパイアされたもの、私的空間を垣間見るようなシチュエーションの作品群は、所蔵者の教養を基に内省する空間を作り出していた。

    前回のような、アカデミックな展覧会向けの大作だらけではない。 もっと私生活に密着した雰囲気が伝わってくる 。 ヴィクトリアン・スタイル それを象徴するように、会場の休憩椅子には、ウィリアム・モリスのテキスタイルを用いたカバーがかけられていた。

    好きな作品だらけなので、全ての感想を書くことは難しい……
    今回展示されている大作の感想や解説は、おそらく他のブロガーが素晴らしい文章を書いていると思うので、個人的に気に入ったものに関して。


    ダニエル・マクリース《祈りの後のマデライン》

    ダニエル・マクリース《祈りの後のマデライン》

    夕べの祈りのあと、自室に戻って服を脱ぎ、眠る準備をしているマデライン。
    彼女は知らない、この時クローゼットの中には、苦境を乗り越え決死の覚悟で彼女の部屋までたどり着いた恋人のポーフィロが隠れている事を……

    キーツの詩『聖アグネス祭前夜』(※1)の1シーンをモティーフにしたもの。

    仇敵同士の家に生まれたポーフィロとマデライン。しかし二人は愛し合っていた。
    ここに描かれたシーンの後、クローゼットから現れたポーフィロは驚くまでラインを連れて駆け落ちする。

    しかしこれは、悲劇を回避した『ロミオとジュリエット』の物語、大団円ではないようだ。
    夢にまで見た恋人との駆け落ちは、冷たい嵐の中、苦悩に満ちた現実に立ち向かわなければならないという、過酷な道のりを暗示している。

    因みに、前回の『ラファエル前派展』では同主題をアーサー・ヒューズが描いている。(※2)教会の祭壇画にあるような三幅対で描いていた。
    どちらも背景のステンドグラスが美しく、中世趣味が色濃い。

    ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《パンドラ》

    ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《パンドラ》

    河村 錠一郎『世紀末美術の楽しみ方』でその図版を見て、凄く印象に残っていた。
    ようやく本物を拝見できて、感無量。

    覚えていたものよりも彩度が低かった。それが主題のイメージ、解き放たれたネガティブなものたちを強くさせる。
    それらは煙や燃える炎のような意匠化した横顔に擬人化され、立ちのぼっている。

    対となるように同じくジェイン・バーテン(モリスの妻)をモデルとした《シビラ・パルミフェラ》が展示されていた。
    明暗が対照的なこの2つの作品。エロスとタナトス、誘惑と罪、絶望と希望に関する主題に、ロセッティのジェインに対する想いを想像してみる。

    エドワード・コーリー・バーン・ジョーンズ《フランジオレットを吹く天使》

    エドワード・コーリー・バーン・ジョーンズ《フランジオレットを吹く天使》

    こちらも、天使絵画を調べると必ずと言っていいほど出てくる図版だったので、ようやく拝見できて嬉しい。

    白い服を纏っているバージョンもある模様……
    それは現・テート・リバプール?(マージーサイド州立美術館・ギャラリー)に所蔵されているようだ。

    ジョン・ロダム・スペンサー・スタナップ《楽園追放》

    ジョン・ロダム・スペンサー・スタナップ《楽園追放》

    時代の変化、価値観の変容を意識させた。
    主題は昔からあるものだが、エヴァの表情が全然違う。
    その目は真っ直ぐ楽園の外に向いている。未練たらしく後ろを振り返る事もなく。
    アダムのように嘆いてはおらず、まるで未来を見つめているように思えた。

    マサッチオの同主題の壁画(※3)を思い出させる。
    男性は泣き顔を見られまいと顔を覆い(恥の意識)、女性は泣き顔は隠さず性器を隠している(性意識の目覚め)という、男女の性差による意識の違いを描き分けた大作を。
    この絵も、それを意識しているのだろう。

    苦難の道を歩む一抹の不安はあるのかもしれない。しかし、それを悲観しないで進む意志の強さが宿っているように、私には思えた。
    彼女は追放の措置をとった神も、誘惑した蛇に姿を変えていた悪魔も恨んでもいないのではないか――?

    エドワード・ジョン・ポインター《テラスにて》

    エドワード・ジョン・ポインター《テラスにて》

    エロス(クピド)の館にいるプシュケ。
    夜にしか訪れない伴侶ゆえに、逢瀬までの日中の孤独を描写した1枚。 退屈を紛らわしているアンニュイな絵。

    この時代の女性たちがいかような生き方をしていたのかは、私は詳しくない。
    私には平安時代の貴族の女性を想像させられた。夜の逢瀬を想う歌が残されているので。

    明けぬれば 暮るるものとは 知りながら 猶恨めしき 朝ぼらけかな

    藤原道信朝臣

    『後拾遺集』恋二・六七二

    エロスはプシュケに、この歌を送るだろうか。

    乱暴な言い方をすれば、ダンナに(アドラー心理学における)ライフタスクをおざなりにされてしまった女性の憂鬱にも見える。

    (現代もそうだと思うけど)仕事であれ、男性のサロンでの懇親ゆえか、男性は奥方の日中の過ごし方を知らない。それをのぞき見ているような雰囲気もある。

    エレノア・フォーテスク=ブリックデール《小さな召使(乙女エレン)》

    レノア・フォーテスク=ブリックデール《小さな召使(乙女エレン)》

    英国の民謡に歌われた貞節な乙女エレンは、冷酷な恋人の子どもを身ごもり、彼に召使いのように仕えるも、さげすみを受けるだけでした。エレンは恋人の言いつけに従い、彼が要求するまま嘘をつくため、少年に見られるように隠れて美しい髪を切ろうとしています。手前には脱ぎ捨てられたドレスが描かれています。

    主要作品紹介 | リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展 | Bunkamura
    (2016/2/25確認)

    男装の麗人という主題、その両性具有的なイメージに官能性がある。
    主題の物語からも、男性の嗜虐的な要素が否めないのだが……
    足元に脱ぎ捨てられた女物の服は、女性の着替えを同じく垣間見てしまった事件性と、着衣ながらもその経緯を想像してしまうエロティシズムがある。

    史実においてはフランスのジャンヌ・ダルク、フィクションなら日本では『ベルサイユのばら』のオスカルのイメージもあってか、性別を越えた、英雄や超越的な存在のイメージがあるので、それを見出すことは可能だろうか……
    そんな事を考えていたが、私にはこの作品からそれを見出すことは難しかった。


    “垣間見”というテーマで感想を書いてしまった。
    それだけではないとは思うのだが……

    それはコレクターの意向なのか、時代が求める女性像だったからなのか、人気のある描写がエロティシズムであるためなのか、画家の好みがそうさせるのか、結論は出ない。

    ヴィクトリア朝の時代故か、道徳律による抑圧に秘められた衝動が、こうした作品を顕現させるのかも知れない。

    私は映画『クリムゾン・ピーク』にも通じる雰囲気に大満足した展覧会だった。

    1. 39. The Eve of St. Agnes. Keats, John. 1884. The Poetical Works of John Keats
      http://www.bartleby.com/126/39.html(2016/2/25確認)
    2. Arthur Hughes, 'The Eve of St Agnes' 1856 | Tate
      http://www.tate.org.uk/art/artworks/hughes-the-eve-of-st-agnes-n04604(2016/2/25確認)
    3.  マザッチョ(マザッチオ)-楽園追放-(画像・壁紙)
      http://www.salvastyle.com/menu_renaissance/masaccio_cacciata.html(2016/2/25確認)
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